記録的な早さで開花した今年の桜。お花見を計画していた多くの人が不意を突かれたことでしょうが、我がウェルカムラフトもまさにその一員となってしまいましたね。昨年は3月20日(祝)の開催(ウェルカムラフト・アーバン1)で、花見には時期が早かったと、ご意見をいただいていたので今年は「お花見ラフト」と銘打って開催を計画していたのです。それでも葉桜となりつつも、まだ、ぎりぎり最終便には間に合ったかなという状況で、文字通り開催に漕ぎ着けました。"爆弾低気圧"が迫る緊張の中、約1年ぶりとなる大岡川でのウェルカムラフト・アーバンが開催されました。
以下のような目的から参加者を募り、意見を伺い、河川利用を促していきます。
(1)インフラの可能性を探る
横浜市内を流れる大岡川を、ラフトボートを利用して南区の蒔田公園から西区のみなとみらい21エリアへの手前まで、およそ3kmの区間を航行し、電車、車等の交通インフラと、時間や感覚を比較します。運河が発達していた横浜のような都市で、河川交通が次世代交通インフラとなりうるのかを検証するための社会的実験と位置付けています。※今回は気象状況を鑑みて、日の出町の桜桟橋を折り返し地点としました。
(2)川の駅を探る
南区の蒔田公園と中区の日の出町にある桜桟橋を目印「川の駅」として、河川交通としてラフトボートの航行が有効に活用できるかを実験します。 その他、どこで乗り降りできたら便利かを航行しながら考えてみます。河川の利用には乗船場、船着き場、桟橋といった構築物の整備が必要です。それに適した場所を川面から探していきます。※今回は蒔田公園のふれあいアクアパークのみを利用しました。
(3)河川の回遊性を探る
大岡川から分流する中村川と掘割川も航行します。明治以降、都市の発展とともに、運河が形成された歴史的経緯を学びます。現在は埋め立てられたかつての運河や、他交通機関との接続を考えます。具体的には船着き場から自転車へと乗り換えたり、川沿いの公共施設や公園に直接川からアプローチできる場所や導線を探ります。
昨年4月にも日本列島に吹き荒れた台風並みの爆弾低気圧が、今年も迫ってくるといった状況の中、わずかに残る桜もこの日が見納めなので、曲がりなりにも「お花見ラフト」は達成できたのではないでしょうか。出艇場所となるのは横浜市南区の蒔田公園です。公園内のふれあいアクアパークにはカヌーやカヤックなどが出艇できる親水施設があります。生憎の荒天でしたが、カヌーの団体もいました。話してみて13~14時くらいが今日のリミットかと確認し、出艇の準備に取り掛かりました。
集合から準備まで、いつ雨が降ってもおかしくない状況でしたが、11時には二艇のラフトボートが無事に出艇しました。当日の参加者は10人です。このような気象条件の中、お越しいただき有難うございました。出艇してみると意外と風はなく、スムーズに進んでいきます。最初は雨を危惧し過ぎて大岡川ではなく、"首都高の屋根"がある中村川へと進路をとりました。運河や川を覆うように造られた高速道路は日本各地にあり、景観の視点から問題視されていますが、悪いところばかりではありません。
蒔田公園は、大岡川と中村川が分岐するポイントです。中村川を進むと、さらに分岐するポイントが現れます。ここから元町中華街方面へと進む中村川と、根岸湾へとそそぐ掘割川に分かれるポイントです。中村川は依然首都高の下を通りますが、掘割川は空が開けています。時間と気象条件を考え、当日はここで引き返すことにしました。地図上では高速道路に隠れてしまっている中村川ですが、地形図で見ると関内・関外は川に挟まれた島のようにも見えます。
蒔田公園まで引き返し、雨も大丈夫そうなので桜まつりが開かれている黄金町・日の出町エリアへと向かうことにしました。大岡川沿いには桜が植えられていて、この時期には屋台も数多く出店しています。花見の名所でもありますが、ピークは二週間前に過ぎていました。それでもちらほら桜は見え、花(桃色)と葉(緑色)との比率では桃色の方が多かった印象です。なんとか、花見には間に合いました。
大岡川を降っていくと桜木町、そしてみなとみらいエリアに流れ着きます。前回のウェルカムラフトではランドマークタワーの近くまで行きましたが、今年は遠くから姿を拝むだけにしました。鉄道路線では京急線に沿っています。出艇場所は南太田駅が近く、そこから黄金町駅、日の出町駅も川からすぐです。しかし、日の出町を起点に京急線は横浜駅方面に大きく進路が変わるため、川では直線上にある桜木町駅との間に、空白区間が生まれます。大岡川沿いの日の出町~桜木町間は、河川交通がカバーできる可能性があります。
桜まつりが開かれている会場が近づくと、音楽が聞こえてきたり、屋台料理のおいしそうな匂いが漂って来たりと、五感が刺激されます。桜桟橋からは観覧用のプレジャーボートが発着して、川から桜の鑑賞を楽しめるようになっています。川沿いの桜と並ぶ提灯に灯がともる夜桜見物が一番の見どころですが、この日ばかりは早めの撤収を余儀なくされそうです。
ウェルカムラフトの一向も桜桟橋に着岸しました。出艇からおよそ1時間半をかけての到着です。ここで用意していたお昼ごはんとノンアルコールビールが登場です。乾杯と行きたいところでしたが、桜桟橋の使用許可を申請していなかったため、我々は水上でお花見をすることとなりました。このように河川利用に関しては、県の治水事務所の許認可制となっており、むやみに川へは繰り出せないのが都市河川の現状です。
そんなわけで、桟橋に係留していたメガフロート(?)の横にボートを寄せ、風をしのげる環境を確保して改めてお花見をはじめました。ボートの上でプカプカと川の流れを感じながらの乾杯です。ラフトボート上でのお花見は新感覚ではないでしょうか。雨も風もまだ来ませんが、細心の注意を払い、ここで旋回して引き上げることにしました。来年こそは満開の桜を眺めながら、「お花見ラフト」をやってみたいです。
今回がラフティングデビューという方が3名いらっしゃいました。大岡川を降るのが初めてだという人も多くいましたが、一様に思っていたほど汚くないといった感想が聞かれました。むしろ場所によっては透き通っていてキレイだという声も。確かに、聞いた話では、一時期より水質は大幅に改善されているようです。泳げるとまではいきませんが、ボートやカヌーで楽しむ分には十分です。匂いも気になりません。防災等の観点から諸々問題はあるのでしょうが、桟橋や船着き場を整備し、河川を有効活用したまちづくりも提言していきたいです。
昼食を済ませ、桜桟橋を後にすると、タイミングを計ったかのように風が次第に強くなってきました。風に飛ばされた桜の花びらが川面を覆っています。行きは追い風でしたが、帰りは向かい風。川に流れがないのがせめてもの救いでしたが、漕いでも漕いでも全然進みません。
風よけに近くで見つけた水路に入ってみました。昨年も同じことをしましたが、入り口からでは暗くて見えない空洞の奥に、実はもっと先まで通じる道があるのではないかと好奇心をくすぐられます。しかし、実際にはすぐに行き止まり。入ってみないとわからないですが、こうしたアトラクションも都市河川ならではです。
苦戦しながらも、暴風雨よりも先に蒔田公園に到着しました。安全に降下完了です。神奈川県内には暴風波浪警報が出されていたと記憶していますが、それでも開催に踏み切ったことには賛否両論あることでしょう。しかし、実施したのには、天気図、降雨量、風量、風速等と二日前からにらめっこし、ぎりぎり無事に間に合うと判断したためです。結果的には何もなく終わったわけですが、都市河川といえども人間の手におえない状況は多分に考えられますので、今回の成功に甘んじることなく、今後も細心の注意を払って計画していこうと思います。
参加者された皆様におかれましては、勇気をもって(?)来ていただき誠に感謝いたします。貴重な体験となたことと存じます。引き続き今後ともよろしくお願いします。
(1)インフラの可能性について
参加者の中から、みなとみらいエリアや中華街エリアへ、川からのアクセスが可能になれば、そうした横浜観光もできるという意見がありました。川下りを楽しんだ後、そのまま食事やショッピングに流れるといった導線ができます。河川交通のインフラとしては、やはりそうしたスポットに船が発着できる桟橋が必要で、利用しやすい環境整備が望まれます。鉄道ではこの周辺だけでJR線、京急線、横浜市営地下鉄、みなとみらい線の4線が通り、主要道では平戸桜木道路、国道16号線と並行して流れています。下記の図のように河川を利用して、鉄道の駅と駅とを結びつける新たな導線が浮かび上がります。鉄道と河川の相互利用が、都市の回遊性を高めます。
(2)川の駅について
現在、大岡川等を管理している神奈川県横浜川崎治水事務所から借りられる乗船場所は、今回のコース上では蒔田公園「ふれあいアクアパーク」と日の出町「桜桟橋」の二か所です。上記の相互利用を可能にするためには、桜木町付近の乗船場の解放、JR石川町駅付近、みなとみらい線元町中華街駅付近の桟橋の新設が必要です。水面と道路の高さが大きく異なるため、桟橋の設置だけではなく河岸工事も必要になりそうです。
(3)河川の回遊性について
鉄道と河川が結びつけば、都市の回遊性は高まります。みなとみらいと中華街へのアクセスが多方面からできるようになります。みなとみらいエリア、関内エリアへの出勤にも、河川を利用することができれば、満員電車や道路渋滞を回避できます。さらに、ゴムボートやカヌー、カヤックまたは一人乗りの立漕ぎボートSUP等を用いれば、人力なのでエネルギー問題にも対応できます。北仲通エリアへの移転が検討されている横浜市役所も、実現すれば大岡川沿い建つことになります。市役所へ河川からのアクセスが可能になれば、横浜市規模の大都市では世界初の事例になります。利用頻度が高まれば河川の浄化にも貢献でき、環境、観光、まちづくりにも大きく貢献できることでしょう。
今回の実施では、昨年よりも範囲が狭かったものの、いくつかの発見がありました。第一に確実に川がきれいになっていること。多少のゴミはあったものの、印象のレベルですが、減っていて、匂いもせず、透明度も上がっていると印象レベルで感じました。さらに、鉄道駅との接続を念頭に、回遊性を考えた結果、必要な「川の駅」の設置場所が定まりました。これに、横浜市の新市庁舎との接続を加えた案を、今後掘り下げて実現可能レベルにまで引き上げたいと思います。ご参加、ご協力いただいたみなさま、有難うございました。
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「もう一つのプロジェクト」は、「ゴミ拾い駅伝」、「ウェルカムラフト」、「もう一つのメディア」、「もう一つのトラベル」、それに更なる可能性と余白の追求を続ける「もう一つの事業」を手掛ける複合事業型NPOです。単一の分野にとらわれず、様々な社会的な問題を、もう一つの切り口から解決に結び付けていきます。2005年12月発足、2011年12月より特定非営利活動法人(NPO法人)